第18章 縁の時間
突然の首領の目の前でのキスに戸惑いを隠せず額を両手でおさえていれば、中也がそっと手を離した。
『!ち、中也さ…ッ、今なんで…』
「ん?また寂しがっちまうんじゃねえかと思って」
ああもう、またそうやってずるい顔して微笑むの。
眉間に皺が寄ってないどころか目元まで優しくしちゃってさ…
「……これは驚いた、中也君でもそんな表情するんだね?」
「?そんな表情って…」
『…首領見ちゃダメ。蝶の』
「ああ分かった分かった、いい子だから俺に抱きついて圧迫すんじゃねえよ、顔見えにくいだろ」
『!ち、中也がいい子って言った…』
「割と言ってんだろうが」
今度は両手で柔らかめに頬を挟まれ、可愛くない声が出る。
まあ嫌いじゃないけど、こういうの。
「蝶ちゃん、お腹の痛みはどうだい?さっき樋口君にちゃんと用意してきてもらっただろう?あれ」
『…確かにかなり楽です今』
「あれ?」
先程樋口さんからは生理なるものに関する様々な必需品を一式頂いたのだが、その中に念のためと言われて購入されていたのが薬だ。
それと一緒に、ご丁寧なことに白桃ゼリーまで。
『魅惑の白桃ゼ「薬ね、痛み止め」…』
「あ、ああ…痛み止め……って、効果あったのか蝶!?」
『…なんか効いてるっぽい』
薬の類が効きにくい私の身体…確かによくよく考えてみれば驚くことだ。
中也の影響…?
私の体質が少し中也に影響したかと思えば、今度は私の身体が“普通になっていってる”?
『………ナイフ貸して』
「は?……っておい!?」
医務室には様々な刃物がある。
その中でもとても医療用として扱われるようなものとは思えないサバイバルナイフを発見し、それを手元に移動させて手の甲を少し傷付けた。
すると血が流れ、しかしその傷自体は一瞬にして塞がってしまう。
『…こっちはどうにもなってないんだ』
流石にそこまで大きな変化には繋がっていないらしい。
「どうにもって…確かめるために女の子が傷付けないの!僕泣くよ!?」
『ご、ごめんなさい…』
「もう、中也君なんて死にそうな顔しちゃってるんだから。…にしても、本当に不思議な話だね?輸血も出来れば傷も治せちゃうし、それに無かったはずの卵子まで……っ?」
首領が目を丸くするのも無理は無い。
一番驚きを隠せないのは私だ。
「!!…っ、黒い、蝶……!?」