第18章 縁の時間
隣の部屋に与謝野先生の気配がする事を確認してから、一人で大浴場へと移動した。
あのまま部屋にいたって、考え込んでしまうだけだったから。
折角の中也さんの休みを台無しにしてしまった…のだろうし、あまり誰かと話したい気分なわけでもないし。
水槽の中から初めて見た綺麗な青年。
その目と、見た瞬間に感じ取った強さで……何故だか私を助け出そうとするようなその素振りで悟った。
ああ、壊しちゃったんだ…だから中に溜められていたありったけの“あの液”が身体に流れ込んで来たんだ、と。
実験者は、何かトラブルが起こってこんな身体の人間を使った人体実験をしているとは世間には知られたくはなかった。
それで作られた最終制御装置が、所謂あの心臓部と呼ばれていた部分。
人為的に作動させることも勿論出来るが……何か、予期せぬ何かが起こった時、私の身体をリセットする事で証拠を隠滅することが出来るから。
データは自分で消せばなんとかなる。
見つかってしまったところで、誰が信じる?生き返る身体なんて。
だから作った、あの装置。
まあ、中也さんの来たあの時期には、暫く私を殺す予定は無かったらしいのだけれども。
だから、どちらか分からなかった。
あの男によって殺されたのか…あの人が誤って壊してしまっただけだったのか。
だから余計に怖かった、あの人と馴れ合ってしまうのが。
だから余計に分からなかった、どうしてあの人は私にこんなにも優しくしてくれるのか。
けれど、四年前にまたあの男に攫われて、直接聞かされてようやく知った。
あいつは、私を殺す手段を使ってなどいなかった……否、使う前に意識不明の重体にまで追い込まれていた。
私の大好きな彼によって。
ただそれだけの事だった……ただ、何も知らない無知な青年が壊してしまっただけだったと知った。
いや、確信がもてた。
そしてだからこそ、もう彼の事を疑わずに済むようにだってなったのだ。
『………一人で泣いてないかな…』
一人で泣いちゃダメだと言った人がいた。
そうか、彼もこんな気持ちだったのか。
愛しい人なら尚更、一緒にいたいと思うものなのか。
湯船に浸かって、もう何もかもを忘れるように、暖かさに身を任せる。
こんなに気持ちいいのにな……全然嬉しくないや。
全然、気分も良くないや。
やっぱり苦手だよ…仲直りって。