第18章 縁の時間
『…あの機械の中には、大量の……私によく効く毒みたいなものが入ってたの。それが水槽の中…直接私の“前の”身体に繋がってて、それで。………本当は言いたくなかったし、言うつもりだってなかったんだけど…』
ちゃんと、“全部”受け入れてほしかったから。
全部受け止めて、ちゃんと対等になりたかったから。
これを知っているのは私だけでいいはずだった。
けれどあの男はそれを知っていて、乱歩さんにも見抜かれた。
そして私の事を一番に考えてくれた乱歩さんのたどり着いた結論が、ちゃんと事実を話すこと。
『ねえ中也さん…怖くなっちゃった?責め、ちゃった……?…こんな奴と一緒にいるの、嫌になっ「なってねえよ!!!」ッ!…っ、中也さっ…』
無理矢理、思いっきり…腕を引き離された。
こんなにも強く拒まれたのは初めてで、私も頭の整理が追いつかなくって。
私の腕を暫く掴んでいて、すぐにハッとして、またギリ、と悔しそうな顔をして私の腕をそっと離した彼。
少し痛かった…だけどそんな事は知った事じゃない、彼の方がよっぽど痛いし辛いはずだ。
彼の方が…よっぽど。
「……悪い……ちゃんとまた戻ってくっから…暫く、一人にさせてくれ。……ごめん…」
さっきは痛かった彼の手が、いつもよりも弱々しく、そっと壊れ物を扱うように私の髪に触れる。
それからゆっくりと…しかししっかりと撫でてそう言った。
『……………は…い……』
重たい足取りで部屋から出て行ってしまった彼の背中はやはり寂しそうで、自信も覇気も無くなっていた。
怒ったんじゃない…怒られたんじゃない。
だからちゃんと待たなくちゃ…私、約束したんだもの。
待つからって、いつまででも待つからって。
一人にするよ、戻ってくるの、待ってるよ。
けど…だけどさ…
『……悪くならないって、どういう事…?……どこか、行っちゃわない…の……っ?』
これで一人にされたら、寂しいですよ。
ダメじゃないですか、私が甘えられる人なんて…貴方を除いて、こんなにも甘えたい人なんて、他に誰がいるって言うんですか。
貴方じゃない誰に泣きつけばいいって言うんですか。
……これだから、また貴方を縛り付ける。
大丈夫…大丈夫だよ。
私の大好きなあの人が…私が大好きなあの人が、私との約束を破る事なんて今までもこれからも無いんだから。
戻って、きてくれるんだから。