第18章 縁の時間
『畳…!!畳久しぶり!!!』
「お前畳でそんなにテンション上がんの?」
『敷いて寝るお布団も久しぶり〜♪』
部屋に入るなりはしゃぎ回る蝶。
荷物を無理矢理俺が持ったはいいものの、すぐさま張り付くように畳にダイブしやがった。
いや、そこじゃない…いいのか、畳にこんなにはしゃぐ娘で。
なんだか少々胸が痛くなるような…
『こういう香りの畳いいんだよ!蝶知ってる!!中也のおすすめやっぱり好き♡』
「風呂上がったらアイスでも食うか」
『アイス!!?』
一瞬で形勢逆転だな、ざまあみやがれ畳め…いやでも本当にいいにおいするんだよなあこれが。
「ああ、これがまた美味い店があるんだよ。アイスっつうよりはジェラート感覚で………蝶?」
『!な、なぁに中也…?』
「……そんなに嬉しいか?…今すっげぇ楽しそう」
思わずこちらの顔が緩まってしまうほどだ。
意識せずとも和むし、笑みがこぼれてしまう。
それ程までに少女の目は輝いていて、まるで初めて見たもののようにはしゃいで無邪気になっていて……これくらいのもん、こいつにもなればいくら見てきていてもおかしくはないだろうに。
『……えへへ…でもね…』
「?でも…なん……!」
俺が座布団に胡座をかいて座ったその時、蝶がこちらに近づいて、俺の膝の上でゴロンと抱き着いてきた。
そう、まるで人懐っこい仔猫のような……本当、気まぐれな奴。
さっきは新幹線でとっとと名探偵のところに行ってたじゃねえか、こいつめ。
『でも、ここが一番好き…♪』
「……何、誘ってんのかそれは?それとも強請ってんのか?」
蝶を支えながら顔を覗き込めば、少し頬を紅く染めて、可愛らしい唇を小さく動かして口にした。
『…強請ってる……お願いしてるの』
「何して欲しい?夕食まではまだ時間も…」
『……露天風呂』
「…………え、まじすか?」
想定外だ、こいつは。
思わず率直な感想が口をついて出ちまった。
『…じゃあ温泉入るまで蝶にキスされるの。これお願いじゃなくて命令』
ムス、とした顔で体を起こし、俺をゆっくりと押し倒す彼女。
おいおい、この展開昨日もあったよな確か…つうか俺に命令とか初めてじゃねえかこいつ、いいのかこんな内容で!?
「い、いや蝶…蝶さん!!?」
『拒否権なし……!♡』
チュ、と小さく音を立ててキスした先は、首だった。