第12章 夏の思い出
「んで、具合の方は」
鉄分を補給し終えてから、中也さんがそこに触れた。
『…分かんない。まだちゃんと立ったり動いたりしてないし……あ、でも背もたれなくても辛くはなくなってきた』
「試しにいっぺん立ってみるか」
中也さんに言われてコク、と頷いてから、その場で立ち上がってみる。
すると朝の気分とは一変して、少しまだ立ちくらみはするものの、なんとか立っていれるようにはなった。
『……立てたね、多分そろそろ大丈…きゃ、ッ……!?』
ツン、と肩を指で押され、それで足からふと力が抜けた。
油断してた。
「っと、…どの辺が大丈夫なんだよ。まあでも、ちょっとはマシになってたみてぇで安心した」
中也さんが上手く受け止めてくれ、驚いたのと少し怖かったのと恥ずかしいのとで、心臓がバクバクする。
「中原君、ここ一応屋根だから!危ないから!!」
「なんかあれば異能で解決」
「憎たらしい異能力…!!」
二人のやり取りもどこか遠くに聞こえる気がする。
『……っ!…た……ッ』
突如、ズキリと頭が痛んだ。
短い痛みに頭を押さえ、本格的に体から力が抜ける。
「蝶…頭痛か?」
『ん…』
「もたれてていいから安静にして…一時間横になっとくのも有りだとは思『……やだ』…お前、それ残り二時間が体育で暗殺訓練だからじゃねえだろうな」
中也さんの指摘にギクリとするも、そもそも私は既に二日も休んでいる人間なのだ。
貧血くらいのもので休んでなんていられない……しかしその貧血くらいのものが、自分自身にとっては一番厄介なものであるからタチが悪い。
矢に塗られてた猛毒がなにかしてる可能性もあるな、やけに回復が遅い…いや、本来銃で撃たれてこんなに元気な方がおかしな話か。
『休むの嫌い……それに狙撃の方の指導だけで…も…………あ、』
自分で言って、ここにきて思いついてしまった。
中也さんの腕の中でクル、と首を横に向けると、え゛、と引き攣った笑いを浮かべられる。
「蝶ちゃん…だいたい想像ついたけど、何企んでる?」
『トウェインさん、私の代わりに狙撃訓練の指導なんて「嫌だよ!!!」やっぱり?』
「名案じゃねえか」
「僕人に教える柄じゃないから!!」
『トウェインさん適任だと思うのに。ほら、汚名返上とイメージアップも』
そこまで言うと、何故だか少し間を開けてあっさり承諾された