第12章 夏の思い出
突然の態度の変わりぶりに中也さんもトウェインさんも表情を引き攣らせる。
『ふ、らんしすさん…、中也さんがね?トマトしか食べられない時代になるかもしれないって…トマトだけになるって!!トマトばっかりになるって!!』
「ミスター中原、俺の可愛い娘になんという悪夢を植え付けている!?酷く怯えているじゃあないか!!」
「待て、いつから手前の娘になった。うちの蝶を勝手に娘にしてんじゃねえぞおい」
「うちのボス相当蝶ちゃんの事気に入ってるみたいだからさ」
トウェインさんの声でゴホン、と一つ咳払いが端末から響いた。
「さて、トマトが嫌いだったな…一つくらいならいいのではという気もするが、確かに食べられるに越したことはない。食べる機会がそこまでなかったわけでもないだろうから……どうだ?ここは一つ、ミスター中原の得意の方法があるのでは?」
「あ?俺の得意なって何だよ、つかなんで手前がんなこと知って…」
「ミス白石がどうすれば伸びるような子なのかは、君が一番よく分かっているだろう。食べ物を美味しく思わせる必要なんて最初はない…というか当分は無理な話だ。それだけ怖がらせてしまったんなら単純な話、嫌いなものを食べさせるということ自体を好きにさせてしまえばいい」
電話越しに聞かされた提案に首を傾げる。
そんな事が可能なのだろうか…というかさっきから伸びる子とかどうとか、我ながら子供みたいだな。
……嫌いじゃない。
「行為自体を好きに…?出来んのかよんな事??」
怪訝そうな顔で端末を見つめる中也さん。
トウェインさんは何かを察したのか、成程ねぇ…と苦笑いになっている。
「君なら簡単だろう?言ってしまえば、食べられたらそれに合わせてとびっきりの褒美を用意すればいいだけのこと…君の得意なやり方なんじゃあないのか。俺が見ていた限りでは、彼女は褒められたり君に良くされることで大抵の事はこなすようになっていたと分析していたのだが」
フランシスさんの言うことに、中也さんと二人揃って気が付いた。
確かによくやっているじゃないか、無理矢理覚え込ませる方法…頑張った分だけ褒めてもらう方法。
適応させるものや方向性が違うだけで似たようなもの。
「……あんた、やっぱ人の親だな。しかもこいつのことよく分かってる」
「可愛い娘をあまりいじめてやらないでくれよ」
「分かってるっつの…」