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第12章 夏の思い出


イリーナの説明に教室がシン、と静まった。

「朝に蝶の肉親の話なんてしてたからじゃないかしら。私は個人的にあの男から色々と聞いてはいたけど、蝶の生みの親の話なんて聞いたこともなかったもの……恐らく、中原自身も初めて聞いた話だったのよ」

「な、中原さんも初めて聞いた話…?」

「じゃなかったら蝶があんなに感極まって泣いてないわよ。興味が無いとかどうでもいいとか言ってても、やっぱり親なんてものからは誰だって愛情を注いで欲しかったものでしょう」

一度だけ自身に泣きついてきた時、それだけでも珍しい事だったのに、彼女は母親とはこんな感じなのだろうかと口にした。
それを思い出して、そして朝の話をしている時の少女を思い返して、ずっとそんな気はしていた。

「簡単に言えば虐待みたいなものかもしれないけど、多分そんな生半可なものじゃなかったはずよ。あんた達の前で詳しく言うのを躊躇ったって事は、それだけ聞かせない方がいいような表現を使わざるを得ないものだったって事なんだから」

「………中原さんってすげぇや、白石の事ならなんでも分かっちまうんだな」

「あれはかなり頭がおかしいから見本にしない事を勧めるわ。……あれだけ誰かを想える人間も普通はいないでしょうから、本当に生きててよかったわねって心から思うわよ」

自分の境遇でも散々なものだったと思う。
けれど自分は、愛されていなかったわけじゃあない。
このたった二十年という、彼女からしてみれば短すぎる瞬間に…どれだけの人の縁や環境に恵まれ、愛されてきたのだろうか。

それを考えると、やはり彼女をどこか他人のようには思えなかった。
娘…とまではいかずとも、妹のように、笑顔でいられるよう可愛がっていてやりたい。

「あーあ、中原さんには敵わんねえ男子諸君?狙ってる奴も多かったやろうけど、略奪すんのも難しそうよ?」

中村の声に一斉に喚き始める…かと思いきや大人しいままの男子達。

「なによ、あんた達まだ蝶の事狙ってたの?」

「……ああいう恋愛って憧れるよな」

「なんつうか、餓鬼っぽくないんだよ…大人っぽい」

「格が全然違ぇな、中原さんかっこよすぎるわ」

恐らく、まだ本気にもなれていなかったのだろう。
気になる存在、そんな状態だったのだろう。

「あれはかっこつけすぎよ…ねえ?カルマ」

「はは、本当馬鹿だからね」

一人を除いては
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