第12章 夏の思い出
その頃教室では、イリーナが小さな箱に触れる。
「い、いいのかよビッチ先生!?それ見てすっげえ白石泣いてたぞ!?」
「だからこそ中身が重要なんでしょ、あの子があんなに泣くだなんてこと一回くらいしか見た事……!…………これは蝶なら泣いても仕方ないわね…本当、一番の理解者っていうか親バカっていうか」
イリーナの開けた箱の中身がやはり気になったのであろう、続々と生徒や教員までもがそこに集まって、箱の中に入った小さな小さなリングを見つめた。
「ちっちゃい指輪…?ハート型で可愛いけど……」
「指輪だったらもっとちゃんとしたやつ持ってたのに」
首を傾げる周りに、超生物が口を開く。
「これはベビーリングといって、ここ最近では日本でも、生まれたばかりの子供に最初に贈られる贈り物として人気になってきているものですよ」
「生まれたばかりの子供に…?」
そう、と前原の疑問にイリーナが答える。
「勿論色んな種類の物があるけど…まあこれは蝶にとっては相当嬉しかったものでしょう。まずこの二色の石は、恐らく蝶とあの男の誕生石でしょうね」
「なんかロマンチックだねぇ〜」
「恋人への贈り物って感じ♪……あれ?でもさっき、子供に贈るものって…」
倉橋と矢田の疑問に、再びイリーナが口を開く。
「ええ、赤ん坊に贈って、その子が大きくなるまで大切に誰かが保管しておくような物なのよ。……ここに文字が彫られてるでしょ?読んでみなさい」
イリーナの声に続けて、全員が小さく彫られた英文を読み始めた。
しかし誰も読み解けるものはおらず、首を余計に傾げるばかり。
「Thank you for being you……って、どう訳せばいいのビッチ先生?なんていうか、これだとどうやっても変な意味になっちゃわない?」
「これはスラング英語ですねぇ、イリーナ先生?」
超生物の言葉に正解よ、と返す。
「日常会話なんかで使われて、あまり正式に学ばれたりはしないような表現の英文よ。スラングって聞いただけだときつい表現や強い言葉遣いの物が多く連想されるけど……これはまあ、蝶なら特にだろうけど、言われて感動しちゃうのも無理はないんじゃないかしら」
「へえ、感動…どんな意味になるんだよ?」
「単純に言えば、貴女でいてくれてありがとう…いてくれてありがとう。要するに、生まれてきてくれてありがとうって事」