第12章 夏の思い出
「んで?僕に相談してきたはいいものの、いいやつあったの?やり逃げ中原君」
「うっせ…なかったら戻ってきてねえっつの」
「それならよかった。まあいきなり連絡きた時は驚いたけどねえ?日本じゃまだ浸透しきってはなかったでしょ」
「俺は人の親ってわけじゃねえから知りもしなかったがな……形にしておいてやった方が分かりやすくていいだろ、あいつには」
屋根の上から声が聞こえた。
何を話してるのかなんて聞いてる暇はないし、そんなのを待っていられるほど今は余裕が無い。
「え、蝶ちゃん!?もしかして登って!!?」
「は…?おい待て、なんでそんな泣いて____うおおッッ…!!?」
蹴りで屋根の上に飛び乗って、そこから素早く、腰を下ろしていた中也さんの胸元目掛けて抱きついた。
『うあぁッ…、親バカ…!!親バカぁあ……!!!』
「ああもう、泣くか抱きつくか貶すかどれかに絞れお前は!?」
『やあ、ッ……全部いるの…!!!中也さんの馬鹿ぁ…っ』
「あーあー、泣かせちゃった。本当狡いよね中原君って」
よしよしと宥めるように私の頭を大きく撫でる。
子供になった…小さい私が、出てきてしまった。
こんなスイッチを入れてしまうには、十分すぎる贈り物だった。
『中也さん…中也さん……ッ!!!』
「ほら、泣きやめ泣きやめ…何だァ?今までで一番子供らしいじゃねえか、お前」
『だって……ッ、中也さんがぁ…っ』
「まさか泣かれちまうとは予想してなかった………だいぶ時期的には遅くなってるけど、六歳生まれの蝶さんならまあセーフだろ」
「いやあ、その計算でも八歳になるし、それじゃあ遅すぎると思うけどなあ……まあ、結果オーライって事で良かったけど」
箱の中に入っていた、もう指になんてとても入らないような、小さな小さなリング。
そこには小さなダイヤモンドとサファイアがついていて、リングには丁寧に彫刻まで施されていた。
「まあ流石は蝶…あんなもん見た瞬間に訳されちまうとは」
『中也さんのキザ…っ、大好きぃい……ッ』
「だから文句言うか好きなのかどっちかにしろって」
『……だ、いすき…ッ…………ありが……と…っ』
私にはもうだいぶ遅い、ハート型のベビーリング。
“Thank you for being you.”
彫られた文字を見て涙が抑えられなくなって、子供になってただ泣いた。