第12章 夏の思い出
『まあ私の場合は人と違って変な境遇と感覚ですから、これを強要するつもりもありませんし……ただ、居場所ならちゃんとここにあるって、竹林君なら分かってると思いますよ』
「白石さん…っ、もう先生感動しています!!よくこんなにいい子に育って……!!」
「「「親じゃねえだろ」」」
ハンカチを持って泣いている殺せんせーに苦笑いになる。
そうだね、名前は付けてもらえてたのかな?
多分、ちゃんと呼ばれた事がなかったから分からないんだ……そういう事にしておこう。
じゃないと、もしも名前すら与えてもらえてなかったような子だったら…流石の私だって悲しいじゃない。
まだ何にもしてなかった生まれたての私に、ほんの少しの愛情くらい……無償の愛が注がれてたって希望くらい、持っていたっていいじゃない。
私の身体を作り替えてくれたあの人は、多分全部知っていた。
知っていたけれど、あの子と私は別物だからと、何一つ教えてはくれなかった。
悪い想像が頭を巡った事がどれだけあったことだろうか。
今だって深く考えるのを避けてる部分がやっぱりある。
興味なんて無いし、もうどうだっていい。
でも、誰かの子供になってみたかった。
子供らしくとか、子供みたいにとかどうでもいい……子供に、なりたかった。
『中也さんの名付けセンスもなかなかよね、こんな見た目なのに日本名で付けてくれるなんて!』
クスクス笑えば、それにつられて確かにと笑いがこぼれ始めた。
しかし、笑っているように見えて少し雰囲気が重い人が何人かいる。
流石にそろそろ誤魔化せなくなってきたかな。
カルマ君と、顔は笑ってるけど殺せんせー…それに廊下付近からイリーナ先生や烏間先生の気配も感じる。
それから……深く問い詰めたりはされないけれど、多分かなり深いところまで気をつかって接してくれてる。
何かあっても、何故だかいつでも味方になってくれていた子…恐らく向こうも演技が上手いし、私のもたまに見抜かれてる。
何者なんだろうと思いもするけど、それでも信頼するには十分すぎる友達だ。
____茅野カエデちゃん。
こんな変な見ず知らずの人間だったはずの私を、クラスで何かがある度に助けてくれていた女の子。
彼女からもまた、少し暗い雰囲気が伝わってくる。
そしてやはり聞こえてしまった…また何か思わせちゃったかな。
同じような境遇だったはずなのに。