第12章 夏の思い出
廊下に出て立原と広津さんと合流する。
中也さんは物凄く上機嫌なのだけれど、いまいち話が凄すぎてついていけていない私は呆然とするしかなかった。
「蝶…?どうしたんだんな顔して、中原さんなんかこんな機嫌よさそうなのに」
『立原…な、なんか凄い提案されて。ちょっと頭ついていかなくなっちゃった』
提案?と首を傾げる立原に、高校に進学しないかって、とこぼすと、目を点にして返される。
「こ、高校進学の提案…?理事長直々にって……どこの高校にだよ」
『ここの高等部』
言った途端に立原も広津さんも驚きの表情を見せる。
中也さんも似たような反応だったけれど、やはりとんでもない事だよね。
戸籍も作れないのに高校に進学しないかなんて…
しかしバカ正直な立原の言葉は、私が予想していたものとはかけ離れたものだった。
「お前、椚ヶ丘高校ってそれ…全国有数の進学校だぞ!?んなところに理事長からスカウトだと!!?」
『え…?外部受験くらいなら多分いけるだろうからって…待って、それどういう事?普通戸籍の話とか、もっと色々「そんな提案なら受けとけよ!勿体ねえぞ!!?」た、立原……?』
妙に熱の入る立原。
しかし広津さんも…中也さんでさえもがそれに納得の色を見せる。
「普通なら入んのでさえ大変なものだが、そこの理事長から歓迎されてんだろ?受ける資格をもらえてるってんなら受ければいいじゃねえか!高校三年間なんてでけえプレゼントだぞ」
『…確かにそうだけど、今学校に行けてるのは依頼って形があるからだし。……社会的に認められていいようなものじゃ、ないから』
「でもそこの理事長がいいっつってたろ、少なくとも学校的には認められてるんだ。無理にとは言わねえけど…悪い事は言わねえ、行けるんなら行っておけ。何より一番行きてえのはお前だろうが」
中也さんの声に目を丸くする。
相変わらず私のこととなるとどこまでも鋭い人だ。
『………もうちょっと、考えます』
「…自分の幸せには遠慮する癖があるからなお前は。こういうところではちゃんと素直に考えるようにしろよ、向こうだってかなりの覚悟を決めてあんだけ言ってくれてんだから」
『ん…考えて、みる』
嬉しさしか込み上げてこないのは事実だった。
どこかそういうものに甘えきれない自分がいるだけだった。
「こういう時は、子供んなれよ」
『……はい…』