第12章 夏の思い出
それに気が付いたのか、中也さんは私から唇を離しておい、と口を開く。
どこか、祈るような声だった。
そしてどこか、弱々しい声だった。
返事をする事も出来ずに目を開いて顔を俯かせると、中也さんが言葉を続ける。
「お前…今どこに行こうとした」
『どこって…首領のとこに「嘘つくんじゃねえ、怒んぞ」!………知らない。中也さんがいないところに行こうと……ッ!?…っ、ゃ……っあ、ぅ……っ』
瞼にキスされて、そのまま唇が下に下りてきたかと思えば、ゆっくりと唇を舌でなぞられた。
「なんでだ」
『だ、…って、っ……なんで、ここにいるんですかぁ…ッ』
これこそ本当に八つ当たり。
泣きつくように中也さんの胸にしがみついて、顔を隠すように埋めた。
一人で動いたのは私なのに。
自己責任でいいじゃない、なんで無理して助けるの。
なんで、私のためにこんな無茶な事するの。
「また質問に質問で返してやがる…お前、こういう時に一人で寝てたらすぐ魘されんだろ。俺だって分かってんだよんな事……俺から離れるとか何言ってんだ、させるわけねえだろ」
中也さんは頭に回した手で大きく撫で始め、私の額に一度キスを落とす。
それに更に身体を強ばらせた。
『……ッ、も、やめて…っ、優しくしないでよ!!………私のせいで、無茶しないでよ…ッ』
「優しく?馬鹿言え、俺はしつこくお前を手元におこうと必死なだけだ…無茶もしてねえ。現にちゃんと生きてる」
『でも…指も、体も冷たく「お前はもっと冷たかった」!!』
中也さんの声に肩を揺らして、大人しくなった。
「本当に……傷塞いでも何しても、外に出ちまったせいで血が足りなかったんだよ。結局途中でヘリが来んのを待ってられなくて無理矢理担任に頼み込んでヘリまで送ってもらって、急いで輸血を開始した」
『………どれだけ抜いたの』
「血が回復したらそれに合わせて何回かした。心配すんな、無茶はしてねえ…無事で、本当に良かった……っ」
中也さんが更に私を抱く腕に力を入れる。
いつもよりしんどそうなのに、それでもやっぱり強かった。
変な言い方…別に死んだって、私なら無事も同然みたいなものなのに。
自己責任で、構わないのに。
『……ン、…っ』
少量の血液を口に含み、中也さんに口付ける。
すぐに薄く唇を開かれ、舌で血液ごと舌を舐め取られた。
「…やっと来た」