第12章 夏の思い出
無機質な音が鳴っている。
いつもと違う感触の物に横になっていて、いつもと違って呼吸が少ししづらくて…いつもと同じ感触が、私を少し強めに包み込んでいる。
『……?』
目を開いてみると、何故だか私はポートマフィアの拠点の医務室にいた。
無機質な音は、所謂生体情報モニターというものの音。
私に繋がれているものだった。
そっか、銃弾が貫通しなかったから、ちよっと危なかったのか。
どこか他人事のように考えた。
そんな事よりも、気になる事があったから。
……まただ。
また、彼の血が供給されてしまっている。
いい加減分かるようにもなった、この感じ。
今回なんていつもよりも酷い、私の頭と腰に回された手が暖かくない。
私もまだそこまで回復はしていないけれど、それでも意識が戻るほどには回復している。
いったい、どこまで抜いたというのだこの人は…私なんかのためだけに、どれほど無茶をしたというのだ。
紅い蝶を一羽舞わせるものの、私なんかがしてもいいのかと躊躇われて、胸を酷く締め付けられてそれを消した。
出来なかった。
状態を元に戻した方がいいなんて事は誰が見ても明らかだ…だけど、それでも出来なかった。
そんな事をするよりも、今回これ程までに無理をさせたんだ。
この人だって殺されかけているんだ。
もういっその事、能力を使うだけ使って、全てのものから全力で逃げてしまった方がいいのではないだろうか。
この人からも、逃げてしまった方がいいのではないのだろうか。
考えた結果、モニターが繋がったままだったので能力は使わず、自力でなんとかそこから脱出しようと試みる。
……中也さんの腕の中から出て行かないと、もっと大変な事になる気がした。
しかし普段から強いからなのかなんなのか、弱ってて意識がないくせして全然腕が退けられない。
どころか更に私を抱きしめてきているような……
そこまで思考が追いついてから、ようやく気が付いた。
後頭部に回された手にグ、と力が入り、中也さんの体が動く。
そして何かと思って体をビクつかせて中也さんの顔を見れば、寝ていたはずの瞳が薄く開かれ、少し眉間に皺をよせて、何も言わずに口付けられた。
『…ッ、ン……』
突然の事態…それも先程私が躊躇ったこの行為。
触れられただけで身体を硬直させて、中也さんの胸板を弱々しく手で押した。