第12章 夏の思い出
「白桃ゼリー?……ああ、そういや前にも買ってたね太宰が」
「………そりゃあどうしようもなくなるわ、ついさっき怖ぇ思いさせちまったばっかだってのに」
あいつが俺に抱きしめられて、あんな短い時間で気分を変えられるわけがねえ。
一般人でも無理なものだ、いきなりあんなもんが体に刺さって……
怖かったはずだ、恐ろしかったはずだ。
いつもよりも、ずっとずっと俺と一緒にいたかったはずだ。
他の奴の名前がどうとか、心配がどうとか…そんなもんはどうでもいい。
あいつの大丈夫は基本的に大丈夫じゃねえってのに。
あいつの言う平気が、強がるための言葉だなんてこと、分かっていたはずなのに。
「どうしたよ、シケた面して…」
「………無意識に弱ってる部分があんのに、そいつに気づきもせずに他の相手をしに行こうとしてたんだ。そりゃあ妬く…そりゃあ怖くもなる…………こいつなんかなら特に、寂しくなる」
「目が覚めたらちゃんと謝りなよ中也?多分何ともないとか言うだろうけど…結局花火は見れなくなっちゃったんだから」
「そのふざけた声帯に嫌気すら起きねえくらいには沈んでんだよ今、ほっとけっつの……クソ、もうちょっと早く来てれば…」
謝るのは勿論…だが今回の件で分かってしまった。
俺に遠慮してしまう性格はまだまだ改善されそうにない事。
俺もまだ、ちゃんと気持ちを理解してやれねえ時があるという事。
……そろそろ死神とやらも、動き始めていやがるという事。
約束通りに可愛がってやる事も出来なくなっちまったどころか、あんなに懐かしむような、幸せそうな顔をしていた花火を見せてやる事も出来なかった。
花火だけはと必死に探して、ようやく見つかったいい祭だったってのに。
一度目に気配に気が付かなかったのも、今回の弾が防げなかったのも、俺のせいみてえなもんじゃねえか。
何もしてやれてねえ…寧ろ俺が助けられてばかりだった。
「………撃たれた翌日に意識が戻って学校に通っていては、流石に不自然にも程があるだろう。暫く休ませてあげるといい、ゆっくり…ちゃんと見てあげなよ」
「手前なんぞに言われなくとも分かってる……ああ、やらかした。どうしたらあいつみてえに上手くいくんだよ…なんでこんなに遠慮する」
「そこはまあ、包容力と性格の差じゃない?後好きすぎて逆に気遣っちゃうとか」
「間違いなくそれだ…」