• テキストサイズ

Replay

第12章 夏の思い出


「…なんでこんな風になってるって分かったんだい?それに前板だなんて、近頃じゃあ使わない浴衣の方が多いのに」

「こいつがどれだけ生きてきた奴だと思ってんだよ、着物なんか着てきたこともあったそうで、かなり着付けにも慣れてやがった…どんな経緯でそうしたのかは知らねえけど、こいつの前板よく見てみろ」

前板を谷崎とやらに手渡すと、前板だしやっぱり硬め…?と不思議そうな顔をする。

「普通のもんじゃねえよ、見た目じゃ分かんねえようになってるが…こいつ、今日浴衣着る時にこれだけ入れんの忘れててな。俺に丁寧に説明しながら最後に入れてたんだが……この前板、防弾出来るようになってるらしい」

「!!防弾!!?」

前板とサラシは蝶の私物だった。
撃たれても大丈夫なようにと付けておいた安全装置が、まさか逆効果に働いちまうとは。

「体ん中で弾が止まってんなら、こんなに出血が酷くなるわけがねえ。こりゃ傷が開きっぱなしだったってことだ…恐らく中で破壊された部分ももうちゃんと機能はしてるだろう……が」

蝶の手を柔らかく握る。
予想通り…しかしゾッとする。

「相当足りてねえな、これ」

「ここに座ってんのを見かけた時から随分と顔色は悪かったように思えるが…機嫌も相当悪そうだったよ」

「……なあ、女ってよ」

小さく話しかけると、女医はいきなりなんだいと言いつつも答える。

「女って、交際相手と二人で…人生でほぼ初めての祭なんてもんに行って、他の女の心配したり名前出したりすると……嫌がるもんか?」

「あんた…他ならまだしも、この蝶を相手にそんな事をしていたのかい。なら納得だ、ヤケ食いもしたくなるわねぇ…他の女って、蝶が相当警戒してた相手なんじゃないのかい?よく聞いてたよ、あんたにベタベタくっついてて、いつか何かするんじゃないかって気が気じゃないって」

二人でいる時にそんな相手の名前でも出してみろ、嫉妬もするだろう。

当然のように吐き捨てられた。

そういうもんなのか。
というか、名前を出すのが拙かったのか心配していたのが拙かったのか…

そこまで考えて、蝶の血を見て思い出した。
こいつ…傷が塞がって安心してたけど……強いからって忘れかけていたけど。

「……さっきの矢でかなり出血して…っ!…誰でもいい、大量に白桃ゼリーを買っててやってくれ。金は後で俺が出すから」
/ 2703ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp