第2章 人の顔と名前って大体一致しないことが多い
部屋には軽い食事が一膳置かれていた。
改めて見回してみれば遠くから男性の怒声と共に何かの衝撃音が聞こえてくる。剣技の練習でもしているのだろうか。
まだ暖かい味噌汁を見つめて、お椀いっぱいに注がれたお粥に目をやる。
こんな美味しそうなもの、久しく口にすることができていなかった。
「いただいても、よろしいんですか?」
「ああ、遠慮なく食ってくれ!!というより食ってもらわんとこまる!」
目の前で豪快に笑う男の人。
まるであの毛むくじゃらの真っ黒な生き物を想起させられるような体つきをしていた。
なんて言ったっけ。
「……ゴリラ、さん?」
「ねぇ、泣いていい?泣いていいよね俺?」
「落ち着け近藤さん。現実を見ろ。そしていい加減受け止めろ」
「ねぇ、泣いていい?いや、死んでもいい?!」
「そうですぜェ近藤さん。病人には衝撃が強すぎらァ」
涙目になりながら右往左往する近藤さんを横目に、湯気の立つおかゆを口に入れる。
久しぶりの食べ物の感触に張り付いていた喉が開いて。急激な嘔吐感が押し寄せるも堪えてその塊を飲み込んだ。
「……ごほっ」
「おい、無事か」
「……い、いえ、久しぶりにこんな美味しいご飯を食べたものですから。驚いちゃって」
「……久しぶり、だと?」