第2章 人の顔と名前って大体一致しないことが多い
「……楓……」
ゆっくりと、虚ろになった意識を引っさげで瞼を開く。
まだ、混沌と眠り続ける少女。
あれは、夢か現か。
その冷たい頬に手を当ててみる。
「頼む……目ェ覚ましてくれ」
このまま、死んだように眠り続けたら。俺は、姉上に合わせる顔も、何よりお前に向こうで合わせる顔もなくなっちまう。
例え憎まれていても、嫌われていたとしても。
こいつが、生きてさえいればそれでも構わないから。
俺の命だってなんだってくれてやるよ。
だから、もう失うのはごめんなんだ。
ぱちりと、瞼が動いた気がした。
そして、少女と少年はゆうに七年を超える邂逅を迎える。
「……あ……」
意識がぼんやりする。
あれ、私確か船から落ちてしまって。そのまま死んでしまったかと思ったのに。
ここは、どこだろう。
流れ込む暖かな日差しとともに鳥の歌声が聞こえてくる。暖かな布団の微睡みに揺蕩いながら頬に当てられた手を見つめた。
ああ、でもこの人の手はひどく暖かくて懐かしい。
暖かくて。
涙が、自然と頬を伝った。
それを見て栗毛色の髪をした少年は瞳を大きく見開く。
「……暖かい、手……」
生きている人の手。
久しぶりに、触れることができた。
あれ、でも。
「……あなたは、だれ?」