第8章 下着屋の前で携帯は開くな
「いやぁ、悪いねぇ総悟くん。こんなパフェまで奢ってもらっちゃって」
にやにやしながら生クリームをつつく旦那に、ふと、何気ない気持ちで問いかけた。
本当に、他意はなかったと思う。
「旦那……もしも旦那の知り合いが、いつ死ぬかも分からねぇ自分と一緒にいて、もしかしたら命狙われて危ない目に遭うかもしれないってなったらどうしやす?」
あえて、知り合いにしたことにも他意はない。
「命ねぇ……いきなり俺にそんなこと聞かれても分かんねぇよ?銀さんお悩み相談室なんてやってないから。まぁ金くれるってんなら話は別だけど?」
「……いや、やっぱいいや。忘れてくだせェ」
自分で言っときながら、らしくないことをした。こんな事を聞くつもりなんて最初から無かったはずなのに。
旦那は死んだ魚のような目をしながら鼻くそほじって気怠げに話し出す。
「俺ァ護り抜くだけよ。そいつが危険な目に会おうがどんな目に会おうが、俺のこの剣が折れるまで戦うまでさ」
「………」
「確かに、女の涙ほどこの世で不味いもんはねぇ。けどな、その女の涙を裏切っちまったらそこでおしめぇよ」
「いや、女なんて一言も言ってねぇんですが」
「細かいことを気にするんじゃありませんっ」
「あと……別に裏切ってるつもりは」
「てめぇが一番に守ることを諦めてどうすんだって話だよ。その女ってのは、今幸せか?もう十分答えは知ってんじゃねーのか?」
不意を突かれた。
「その女がくたばりそうになるなら、その前にお前がくたばれ。くたばりたくなけりゃ、死なないように、死なせないように護り抜くしかねぇだろ」
そうだ、俺は一度失ったことがある。
何よりも大切で、かけがえのない血で繋がった家族を。
あの時、姉を置いていった。
そのあと、どうなった。