第8章 下着屋の前で携帯は開くな
姉が土方に好意を寄せていたことはしっていたし、俺も今土方と同じ理由で楓を突き放そうとしているんじゃねぇのか。
これがただの男の意地だとしても。
惚れた女に幸せになって欲しかったとしても。
最後に姉は幸せだっただろうか。
惚れた奴が自分から離れていって、それにも耐えて生きてきた姉は、幸せだっただろうか。
楓をあの時あの場所に置いていって、戻ってきた楓は幸せだっただろうか。
たとえ、俺を忘れて今は何の好意も抱かれていないにしても、このまま突き放してしまうのは果たして得策と言えるのだろうか。
楓は、幸せになれるのか。
まったく記憶のない場所にいきなり置かれて、誰にも縋れない状況で。
あいつがもし、好きな男ができてそいつと所帯もてるなら俺はそれが一番幸せだと思う。
だが、この俺の側にいるうちは。この手が届くうちは、あいつを二度と傷つけさせたくはない。
大切な人を失う苦しみは、二度と味わいたくないんだ。
ああ、そっか。惚れてるんだ。
今も昔も、あいつという存在に惹かれちまってるんだ。どうしようもねぇ。そんなことに気がついてしまったらもう、戻れなくなっちまう。