第7章 引越しは駅から近い所にしろ
「私、この着物大好きになりました!……大切に着ますね」
体制を立て直して尚も真っ直ぐな言葉を投げてくる馬鹿に本当に辟易する。
俺には、眩しすぎるんだ。
もうそんな素直な言葉を返せる口なんて持ち合わせちゃいない。
「……勝手にしろィ」
「はいっ!」
そのまま歩を進めればふと、楓が振り返る。
何かと思えば、にやにや頬を緩めてまた前を向いてしまった。
なんか腹が立ったから頭を叩いてやった。
「いたっ!」
「きめぇ」
「ひどい、なんですかきもいって!」
街中を、人々が行き交う。
その中で、素直に笑えない二人の声のない笑い声が響いていた。
お前だけは、綺麗なままでいて欲しい。