第7章 引越しは駅から近い所にしろ
弱い自分に腹がたつ。
何で、あの時楓をここに置いてもらおうとしたのだろう。本当ならば別のところに居場所を作ってやったほうが良かった。こんな男所帯で重労働させて。
でも、あの時の楓を一人にさせちゃまずいと思った。また前みたいに、自分の目の届かないところで不幸に晒されるような気がして。
自分の、手の届くところに置いておきたかった。
ああ、自分でも思うがつくづく俺って奴はどうにもならない人間らしい。
そんなことを考えている時点で、こいつに関わるわけにはいかないんだろう。
その長い黒髪に目を向ける。
そんな俺の心など露知らず、呑気な馬鹿は初めて見る街に目を輝かせていた。
私服に着替えた俺たちはそのまま街道をまわっていた。
「わぁ!!凄い!これが都会ってやつですよね!私、田んぼと船の中しか知らなかったから初めて見ます!」
前より少し砕けた喋り口調になった楓に、気だるげに答える。
「うるせぇ、少しは黙って歩けィ」
「でも、沖田さんほら見てください!あのお団子美味しそう!」
さっきまでの出来事なんてすっかり忘れているようで。俺がかけたあの酷い言葉もまるで気にするのを避けているかのように。
「てめぇ何のためにここまで来たんだ」
「あ、忘れてた……生活必需品を買う為でしたよね!」
「ったく、脳天気にも程があらァ」
体裁を全く気にせずにはしゃぐ楓に溜息を吐く。先ほどまで喧嘩していたのが嘘のようだった。
ああ、そういえば謝りさえもしてない。
いや、今更謝れるわけがないけれど。
「早く終わらせたら……一つだけ買ってやらァ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「……わかったら早く済ませろィ」
「はい!」
ちょろい。