第7章 引越しは駅から近い所にしろ
いきなり俺と行きたいから、何て口説き文句で誘われるとは思わなかった。
元々天然で馬鹿でどうしようもない奴だけど、本当関わると身がもたない。
自然と喜んでしまう自分自身を酷く嫌悪した。
こいつは前のこいつじゃない。
以前と同じように扱うつもりも更々ないが、違うからといって関わりすぎるとこっちの身が持たなくなる。
どちらにしても、結局身なんて持つ気がしないのだけれど。
一人にして置いていった俺が、今更どんな顔して会えるっていうんだ。
あんな辛い経験まで引っさげて戻ってきて、記憶を失ってたのが逆に良かったんじゃないかと思えるほどに。
俺といると、こいつは幸せになれない。でも、俺といなくても不幸になっていくこの女を見捨てられるわけもなかった。
結局、俺が変なジレンマに振り回されてこいつを傷つけているだけだ。
あいつにとっては何も知らない場所にいきなりほっぽられて寂しくないわけがないだろうし、心細くないわけがないだろうし。
泣き虫だし、弱虫だし。
でも、俺はそれを慰めてやれない。
必要以上に関わって、もし楓を抱えざるを得なくなったとき。俺はこいつを幸せにしてやれる自信なんて更々ない。
ならいっそのこと嫌われてしまって、他の男と幸せに暮らしてくれれば。
それならば、俺は一生をかけてあいつの命を護る覚悟ができたのに。