第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
「いいか、覚えておけ。いくらてめぇが俺たちの昔の幼馴染だとして、基本的には警察とその重要参考人としての関係に過ぎねぇからな」
その言葉が鉛のように胸に刺さる。
「……っ」
何で、そんなことを言うんだろう。
「俺に関わんな」
何で、そんなことを言うの。
「分かりました……」
どうして。
そんなこと思ってもないくせに。
私は返事をするの。
この前までの優しさがまるで嘘のようで、一人舞い上がった私が馬鹿みたいで恥ずかしくなって。
思えば当たり前だった。
いつから勘違いしていたんだろう。
この人達に、少しでも近づけるかもしれないって。思い違いも甚だしいじゃない。
だって、今の私には何もない。
でも、だからって。
沖田さん達と関わらないのなら、私はどうすればいいんですか。
他に、誰も私を知らないというのに。
必死に唇を噛み締めて泣くのに耐えている顔を横から見ているのは辛い。
ああ、本当に喧嘩しちゃったよ。
ていうかゴキブリが発端で喧嘩ってどういうことだよ。いや、悪いのは完全に沖田隊長だけれども。
何で、あんなこと言ったんだろう。
幾ら何でも酷すぎるんじゃないだろうか。彼女の境遇を考えれば、これほど辛いことはないのに。
でも、俺は彼女に掛ける言葉を持たない。
分かりますか、沖田さん。
貴方の言葉は一番深く彼女に届くんですよ。
これはまた、大変な日々になりそうだ。
山崎の腹痛が治るのは暫く後となった。