第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
状況を問いただせば、突然奴が動いた為に一旦は距離を置いたが、何故か尚も楓さんに近づく奴に恐怖を感じて逃げ惑っていたという。そして、その状態を面白がった沖田隊長は更に奴を煽るかのごとく背後で追いかける形により切迫感を与え奴に本能的な警戒心を抱かせた。
それにより、奴を追う沖田隊長と奴から逃げる楓さんで奴がサンドイッチされる形になったのだという。
本当にこの人たちは。
その後、無事ゴキジェットにより奴を掃討した山崎は怒りに眉間を寄せていた。
いや、主に沖田隊長に。
「あんた女の子になんてことしてるんですか!!ゴキブリ使って追い回すとか正気の沙汰じゃねぇよ!!」
「そこにゴキブリが居たから」
「いや、そのに山があったからみたいに言わないでくれない?そんなのなんのロマンチシズムも感じないから。寧ろもっと邪悪なものを感じるから」
「細けぇこと気にすんじゃねぇよ」
「細かくねぇよ!!!」
「……もういいです、山崎さん。沖田さんに頼った私が馬鹿でした」
「……」
「楓さん……」
「記憶をなくした私がどんな関わりを持っていたのか分かりませんが、ちゃんと人の性格は把握して関わるべきですよね。そういうことで沖田さんにはもう金輪際頼りませんから。山崎さんよろしくお願いします」
「……えぇ……」
あ、完全に怒ってるよこの子。
平気なフリしてるけど笑顔が黒い。
やっぱり女の子にやって悪いことをやらかしてしまうと後の修正がとてつもなくめんどくさいのは万国共通らしい。
沖田さんを見やれば、いかにも不機嫌な視線を楓さんに送っていた。
だが、諦めたのか溜息をついて言う。
「じゃあ、金輪際俺には頼らないでくだせェ。何があっても呼ぶんじゃねぇ。」
「望むところです。ちゃんとやっていけますから、私」
沖田が怖い顔をしたまま歩き去ろうとした時、ふと立ち止まって振り返らないままに告げた。