第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
楓さんの部屋の前まで来て、勢いよく扉を開ければカサカサというあからさまな音が聞こえてきた。
その音にその場にいる誰もが奴の存在を確信する。
「あー、これは確信犯だぜ。今すぐゴキジェットもってこいザキィ」
「なんで俺!?」
「ゴキジェット吹き付けるぞ、早く行けィ」
「ひでぇ!!」
沖田隊長の罵詈雑言に泣きながらゴキジェットを取ってくれば、そこでは既に盛大なゴキブリ掃討が始まりを告げていた。
「おらー、待ちやがれィ」
「いやぁぁぁ!!来ないで!!来ないでぇぇえぇぇ!!」
廊下で女が男に物凄いスピードで追われている。
いや、誤解を招かないように丁寧に状況を説明しよう。
要は、女がゴキブリに追われており、そのゴキブリを男が追っている図なのだが。小さいゴキブリを挟んでいるとはいえ、はたから見れば異常な光景だ。
やる気のなさそうに猛スピードで追いかける沖田隊長に、涙目で逃げ惑う楓さん。
いったいこの短時間で何があった。
「……何やってんだおめぇらぁぁぁぁぁぁぁ」
山崎の今日一番のツッコミが炸裂した。