第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
「それよりも、何してたんでィ」
「あ!そうだ!……あ、あの、虫!!虫が出たんです!」
「虫?虫って、あの虫のこと?」
「はい!!もう、手がカサカサ出てきてもう無理です!!脂ぎってて気持ち悪いです!!死んじゃいます!!殺してください!!」
「え、どっちを」
「馬鹿の方でよろしく頼まァ」
「馬鹿ってなんですか!!あんな節足動物生き物とさえ思えませんよ!!見てみますか!?見せますから!!」
「……うるせぇ。とりあえずその虫を始末すりゃいいだけの話だろうが。どこにでた」
「わ、私の部屋!!」
「…………自分で何とかしろィ」
「ひどい!?無理ですよ!!無理無理無理!!」
物凄い勢いでさっき体験した虫との衝撃の出来事を語る彼女。
虫のことになると人がここまで変わるなんて初めて知った。とれだけ苦手なんだ。
「自分じゃなんとかしたくてもなんとかできないんです!このままじゃ野垂れ死にしてしまいますっ!」
「俺にゃ関係ねぇ」
「いや、そうですけど!お願いします!」
「嫌なもんは嫌なこった」
さも鬱陶しそうに猛烈な抗議を受けている沖田隊長を横目に恐る恐る進言する。
「じゃ、じゃあ俺が行きましょうか?」
「え!?本当ですか!……ありがとうございます!やっぱり山崎さんは優しい方ですね!」
満面の笑みでまるで救世主にでも出会った家のように手を握ってくる彼女に、ははは、と乾いた笑みをかえしながら沖田隊長の殺気に耐える。
本当何なんだよこの人、俺何かしたかな。
「おい、馬鹿。お前の部屋どこなんでィ」
「ば……もうっ!どうせ否定しても呼ぶんでしょうから好きにしてください……って、付いてきてくださるんですか?」
「……てめぇの驚き泣き叫ぶ顔を鑑賞しにいくだけでィ」
「なら来ないでくださいよ!」
そういいつつも、楓さんと俺と、あと背後でしれっと付いてくる沖田さんで壮大かつ些細な下らない虫駆除が始まった。