第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
「……」
「うぅ……」
「……何やってんですかァァァァァ!?」
いやいや、さっきまでのいい雰囲気どこいった。ぶち壊しだよ。
なんだよこの天国から地獄への快速急行は。楓さんになんてことしてんだ。
ここの唯一の良心に。
「いや、あんたいくらなんでも今そこで離すとかどんだけ空気読めないんですか!?!?わざとか!?わざとなのかァァァァァ」
「あ、悪い。手滑っちまった」
「謝るの遅ぇぇぇぇぇえ」
「いたた……」
無残にこけた彼女の元に慌てて駆けつける。
「大丈夫ですか!?楓さん!」
「はい、大丈夫です……。もう、沖田さん、なんでいきなり手を離したんですか!」
頬を膨らませて怒る彼女。
それをいとも何もなかったかのように躱す極悪非道。
なんてことだ。
惚れてるなんてもんじゃない。
完全に遊んでやがる。
「悪りぃ、あまりにも重くって手が滑った」
「……え、そんなに重かったですか!?」
本気で焦り出す楓さん。
それに呆れる沖田隊長。
「……ああ、重かったなぁ。腕が折れるかと思っちまった」
「ええ!?そんな!!」
「……冗談でィ。間に受けるとかマジで馬鹿だろお前」
「…………むぅ」
いや、天然さんなんだよ。
大丈夫だよ、楓さんは十分可愛いよ。
そう言ったら殺される気がしたから胸の中に留めておく事にした。