第5章 ゴキブリは死んでも死ねない
そんなことを考えていれば、曲がり角から物凄い勢いで走ってくる音が聞こえてきた。
いや、いくらなんでもこんなに音は鳴らさなくない?
どんだけ急いでるの。
「あ、あの!!山崎さん!!」
「楓さん!?」
一体どうしたのだというのか。
いきなりのことで頭を混乱させていれば、楓さんは急いでいるあまり足元をおろそかにして躓いてしまう。
「きゃあ!?」
危ない。
駆けつけようと思った矢先に、誰よりも早く楓さんの体を受け止めたのは沖田隊長だった。
傾いた腹回りを優しく手で支えてあげている。その様子が普段の姿からはあまりにもかけ離れていて。
そんなに大事な子なら、やっぱりそばに置いておけばいいんだ。
何でもないような顔で支える沖田隊長とは裏腹に、楓さんは一気に顔を赤らめて恥じらいだ。
「あ、ご、ごめんなさい!……沖田さん?」
「何やってんでィ、馬鹿」
「え、きゃ、わぁ!?」
沖田さんが直ぐに支えていた手を離した為に、体のバランスが取れなくなってそのまま地面に落下する。
こ気味のいい打撲音が辺りに響いた。
後に残ったのは痛む頭を抱えながら唸る少女と、黒い笑みを携えたサド王子。
そして、呆然とその状況を見つめる俺だった。