第3章 取り調べにカツ丼なんか出ません
「総悟、言い過ぎだ。楓、悪いが今は教えてやれねぇ。てめぇが自分で記憶を思い出さねぇ限り、俺たちはお前の記憶を伝えるつもりはねぇってだけ覚えておいてくれねぇか」
「……」
ここで、何故と聞くべきではないんだろう。私はここに置かせてもらっている身だ。
欲求を喉に押し込めて微笑む。
「分かりました。わざわざごめんなさい」
「いや、気にすんな」
とりあえずは、ここで生きていくことを許してくれたこの人たちに感謝をしよう。
今は、それだけでもいいじゃないか。
思い出すのは、それからでも遅くはないじゃないか。
そう、思うことにした。
怖いけれど、今はこの人たちに嫌われる方がもっと怖い。だって、ずっとそばに居られる確証も思い出もないのだから。
失うのは、いつだって唐突だ。
だから、今度こそ失わないように大事に抱え込まなければならない。
「ごめんな、楓さん。とりあえず女中の仕事は明日から教えることにするから。だから今日は安心して休んでくれ」
「分かりました。わざわざありがとうございました」
笑顔を浮かべてその場を立つ。
背中に聞こえる扉の閉まる音と、暗くなった廊下。
そこで一人、孤独感に泣いた。