第2章 人の顔と名前って大体一致しないことが多い
「……」
「……どうした?」
「いえ、いい人なんですね沖田さん」
そう言った途端に切なげとも苦しげともとれる複雑な表情をした。その表情の理由を私が知るのは、きっとまだ後のことになるだろう。
「いい人、ねぇ…」
あれ、私何か変なこと言ってしまったかな。
「ったく、馬鹿なところは記憶を失おうが変わらずってとこかよ……やってらんねぇぜ」
「馬鹿って、言い過ぎですよ!私そんな変なこと言いました?」
「……おまけに鈍感ときた」
「そんなダメダメですか!?」
「……ぷっ」
「あ!……もうっ!!」
微かに部屋を覆う暖かな笑い声。
いつの間にか涙まででてきてしまって。
どうか、この時がずっと続けばいいのに。そう願わずにはいられなかった。
「ったく、そんな体で無理に笑うからでィ」
「だ、だって」
「でも、やっとまともに笑うようになったじゃねぇかィ……あとは、ゆっくり休んどけ」
そう言って、その場から立ち去ろうとする沖田さんを呼び止める。
「あの……」
「ん?」
「ありがとうございました!」
精一杯の感謝を込めた笑顔を乗せて。
目を見開いたのは一瞬だけで。
またすぐに何を考えてるのかわからない無表情に戻った。
「……おう」
襖が閉まる。
一人になった部屋でも不思議ともう寂しさは感じなかった。
これからどうするのか、私は何をするべきか、分からないことはたくさんあるけれどとりあえずは大丈夫だ。
そう考えると何だか力が湧いてきて。
閉められた襖を見つめて一人微笑んでいた。