第2章 人の顔と名前って大体一致しないことが多い
「私、どこにももう、帰れなくって……そして、ある日男の人に攫われて……」
「っなんだと……」
三人の顔つきが一気に深刻なものへと変わる。
「それで、女の人が一杯いるところで、一緒に生活することになって……今日、私が売り出される日らしくて。襲われそうになったところを必死に逃げ出してきたんです……」
こんなところでまさかこんな大きな証拠と手掛かりを掴めるとは思わなかった。しかも、その被害者がまさか自分たちの関係者だったなんて。
沖田は、ゆっくりと目を瞑る。
怒りに体が震える。
なんてことを、してくれたんだ。
こんなことになるくらいだったら、ずっと側に置いておくべきだった。こんな傷を負わせるために、俺はこいつを一人にしたわけじゃない。
唇を酷く噛みしめる。
血の味が、じんわりと体に染み込んでいって。自らが犯した罪を再認識させられた。
「私っ……っ……」
その小さな頭にぽん、と手を乗せる。
そのままゆるゆると撫でてやればようやく素直に嗚咽を口から吐き出し始めた。
「泣きたい時は泣け。ぶさいくがさらにぶさいくになるだけだぜィ」
「……っ……うぁ……」
「これで、異論はなくなったな」
「あっても認めやしねぇさ」
「……うむ」
三人は、酷くすっきりとしていてそれでいて静かな怒りを瞳に讃えながら優しく私に告げた。
「楓さんの身は、この新選組が保護する。新しい住処も手配しよう。警備にも全力を注ぐ」
この人たちは、本当に優しくしてくれる。その優しさに触れるたびに、心がまるで抉れていくようで。
涙が、止まらなかった。