第2章 人の顔と名前って大体一致しないことが多い
「あの、ちょっとだけ、話を聞いてくださいますか?」
気がつけば、そんなことを口に出していて。
「何だ?」
息を深く吸い込んで、吐く。
堪えたものを吐き出すために。
「私っ……記憶が、ないんですっ」
漏れそうになる嗚咽を必死に飲み込んで、記憶のない再会に声を震わせる。
「子供の、頃……目の前が、真っ赤になってて。私の、お母さん、お父さん……だったはずの人たちが倒れてて……」
「無理すんな」
違う、無理はしていない。
聞いて欲しい。私の知らない私を知っているこの人たちに、私の存在を知って欲しい。
そう思った。
「……私は、それ以前の記憶を失くしてしまったんです……」
駄目だ。堪えようとしても涙が次から次へと止まらない。
三人は、驚くでもなくただ事態を受け止めていた。きっと察しはついていたのだろう。この人たちと過ごしていたであろう記憶がないのが、酷く憎らしく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それでも、関係のない私になっても受け止めて欲しかったんだと思う。