第20章 人間と妖怪の恋物語
ヒュオオォー…
深い霧が広がる山奥に、夜の静寂を壊さぬよう、殺生丸が静かに降り立った。
殺生丸の後ろから、桜の枝を持った邪見も付いてきている。
「…桂仙人。」
殺生丸は目の前の大きな湖に声をかけた。
ブクブクブクブク…
すると、中央の水が波を打ち始め、湖の中から年老いた仙人が出てきた。
黄色の着物に身を纏い、手には薄汚れた水晶を持っている。
水晶は汚れて霞んでおり、輝き一つない。
「ほほう。おぬしが天下最強の妖怪殺生丸か。こんな夜更けに何の用じゃ。」
「貴様、殺生丸さまを呼び捨てにするとはなんて命知らずな!!」
枝を突きつけて言う邪見を無視して、殺生丸は一本前に出た。
「お前が持っているその水晶の盆。世の中のあらゆる物もその鏡に映しだせば真の姿が浮かび上がるという。」
桂仙人は、持っていた水晶を差し出した。
そして、水晶越しに殺生丸を見つめた。
「…おお、見える見える。そなた、やっかいな呪いをかけられておるのぅ。」
桂仙人の言葉に、殺生丸は瞳を細くして睨みつけた。
「…なんじゃ、本当の事を言ったまでじゃ。それで遥々わしを訪ねてきたんじゃろう?」
すると、殺生丸が桂仙人の目の前に邪見が持つ桜の枝を放り投げた。
桂仙人は、それを手に取って見た。
「桜の木かい?」