第9章 選択の時
上空の雲の中。
殺生丸は雲の中に聳え立つ、大きな屋敷に足を踏み入れた。
屋敷の祭壇に、大きな椅子に腰掛ける一人の美しい妖怪。
「来たか、殺生丸。」
「わざわざ何の用だ。」
殺生丸は不機嫌そうにその妖怪に言った。
「相変わらずだな。母を前にそんな顔をするな。お前、屋敷を築いたそうだな。」
殺生丸は何も言わないでいると、邪見が身を乗りだした。
「はっ!その通りでございます!」
ご母堂は邪見に視線を向けた。
「小妖怪、殺生丸はこの父上が残した我らが一族の屋敷には住まない、ということか?」
「はっ!えっと、あの…殺生丸さま…」
邪見はご母堂の厳しい眼差しに、殺生丸を見上げた。
「ここに住む気はない。」
殺生丸の言葉にご母堂は、はぁと溜息をついた。
「まぁ、よい。私が広々と使わせてもらおう。しかし殺生丸。この屋敷を継ぐ気はないことはいいが、我らの血を絶やすでないぞ。」
犬夜叉と殺生丸の父、犬の大妖怪の血を受け継ぐものは、犬夜叉と殺生丸しかしいない。
犬夜叉は半妖だ。正当な血を受け継ぐのは殺生丸だけ。
「…良い相手がおらんのなら、私が幾人か用意してやってもよいぞ。」
ご母堂の言葉に殺生丸の表情が歪んだ。
「その必要はない。」
そういって、殺生丸は屋敷を出て行った。
邪見も慌てて後をついて行く。
「…全く可愛げがない。」
ご母堂がそんな殺生丸の後ろ姿を見て呟いた。