第2章 第1章 入学
「そりゃーね!あの無口で誰に向かっても威圧的な態度?あれを醸し出せるヤツはそーいないよ?尊敬に値するかもね!逆に!」
そう言いながら裕子は笑う。
「でも、あれがモテるんだもんねぇ……。わからん。」
「うん……。」
って惚れた私が言うのもなんですけどね。
楓はモテる。
中学生になった頃からスター選手だった。
去年のバレンタインは、他所の中学校からもチョコが山のように届いて、クラス中でどぅやって持って帰るか悩んだくらい。
結局、友達何人かでお値段が張りそうなのを選んで楓の手元に残して、後はクラスメイトと部活の後輩に配って持って帰ってもらった。
そもそも、楓は甘いもの食べないから、手元に残したヤツも我が家で処理した始末。
ラブレターも3年間、ほぼ毎日貰ってた。
「みんな、アイツの試合中の姿しか知らないからね。」
そう、バスケの事になると別人のように熱くなる。
私から言わせれば、ある意味病気。
ま、確かにバスケしてるときの楓が一番格好いいけどね。
「そんなのに一番縁が無さそうなのに、アイツからあんたに告ったんでしょ?」
「……うん。」
「ますます謎だ……流川楓……。」
私だって、楓の全部がわかってるわけじゃない。
大体、喋らないし、表情も読みにくい。
初めて会ったときもそうだった。
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「初めまして。向かいに越してきた依田と申します。この子は娘の花穂。この春から3年生です。」
「流川です。よろしくお願いしますね。花穂ちゃんは家の息子と同じ歳ね。よろしくね。」
「あら、よかったわね花穂。お友達が近くにいるわよ。」
小学校3年生になる時に、父の仕事の都合で今の家に関西から引っ越して来た。
母親同士のそんな会話の中、楓が部屋からバスケボール持って、無表情で現れた。
「あ、楓。お向かいに越してきた花穂ちゃんですって。」
楓は無言で靴紐を結んでいる。
「楓くん?よろしくね。」
私の母にそう言われて、とりあえず顔を上げて私の顔を見た。でも直ぐに、視線を落として靴紐を結んでいる。
「もう!この子ったら!ごめんなさいね、この子妙に無口で……。バスケットしか興味のない子なの。」