第3章 第2章 部活とすれ違い
「あんたの旦那がさ、あんたにコクったってんだから、さらに驚きだわよ!」
「私も考えれば考えるほど不思議でたまんない……」
中3の2月、私が嶺南女子を受験した日。
裕子と駅で別れて、帰路についた時に楓は自転車にまたがって私を待ってた。
「本当に、嶺南行くの?」
「……え?」
楓が自分から話を切り出すなんて珍しくて、一瞬聞き違えたかと思ったくらい。
「何で?」
「あ……えっと……英語の教育環境がこの辺じゃ一番でね?通訳士になりたいから……あの……。」
「ふーん……。」
楓は、私から荷物をさりげなく取って自転車のかごに入れた。
「ありがと……。」
「乗って。」
何だか、いつもより優しい楓にドキドキしながら後ろに跨がった。
楓の背中がいつもより近くて、大きくて、またドキドキしてた。
「……ちゃんと掴まれ。」
楓はそう言って、私の右腕を自分の右手で掴んで腰に回した。
「……はい……」
もー、絶対顔が真っ赤!
って位、身体中の熱が顔に集中した感じ。
心臓の音も、口から耳から漏れて聞こえてるんじゃないかってくらいうるさかった。
そして、楓は私の右手を握ったまま自転車を漕ぎだした。
家を通りすぎて、いつものコートがある公園も通りすぎて、家からだいたい20分くらいの海が見える公園に着いた。
途中、段差なんかで私の腕が楓の腰からずれそうになったら、ぎゅって私の手が離れないように握りしめながら……。
「お尻痛い……。」
「悪い……何も考えてなかった。」
その時は、公園には誰もいなくて、私と楓の二人きり。
「どうしたの?こんなとこに連れてきてくれて。」
「……。」
楓は、海が一望できる場所の柵の上に器用に座って、何か考えてる感じだった。
私も楓の隣に、寄っ掛かってみた。
「俺は……湘北に行く。」
「そっか。陵南の監督さん……田岡先生だったっけ?せっかく来てくれたのにね?」
陵南は、推薦は勿論、一般入試も既に終わってた。
「陵南は遠い……。」
「でも、電車は私と一緒だよ?」
ちょっと、期待を込めてそんな事を言ってみた。
「電車はニガテ……。」
「だねー?ふふっ。」
と、言うよりだんだん、この場所に何故連れてきてくれたんだろうって疑問が沸々と沸いてきた。
「……楓?何か話でもあった?」