第9章 記録と繁栄
霧渓は、昴輝から目線を逸らさずに今吉に告げた。
「狼族は、全員撤退した。あとは、今吉達だけだ。」
「恩にきるで〜」
今吉は、ニヤリと妖しい笑みを浮かべる。
「逃がすと思ったのか?」
昴輝は、右手の爪を伸ばし霧渓に向かって襲い掛かる。一瞬だけ、結紀も霧渓の方を向いてしまった。
すぐに、異変に気付いた彼女は昴輝に荒々しい声で言った。
「昴輝!罠だ!」
「っ!!」
昴輝は、しっかりと彼女の声を聞いていたので、霧渓からすぐに離れる。それと同時に、地面から無数のナイフが飛び出してきた。
あのまま突っ込んでいたら、彼は串刺しになっていたであろう。狼族にしては、珍しく武器を使っていた。それと同時に、今吉達はその場から離れていった。
今、追いかけても恐らくは追い付けない。それを分かっているから、結紀はそれ以上、追いかけない。
「それでは、失礼するよ。吸血鬼の頭首。」
霧渓は、勝利の笑みを浮かべその場から素早く離れて行った。狼族の自慢のスピードで、逃げるように消え去った。
その様子を黙っていた結紀に対して、僅かに苛立ちを見せる昴輝。
「結紀、何故、追いかけない?捕まえれば、人質になるかもしれないぞ。」
「確かにそうだけど、これも罠だった?どうする?」
彼女の言葉に、ぐっ……と思わず黙り込む昴輝。余程、悔しいのだろう。それは、結紀も同じ想いをしていた。
そして、狼族と戦闘をしたのは鳥族たちだ。そちらの状況が気になる。もしかしたら、誰かが大怪我をしているかもしれない。