第9章 記録と繁栄
「流石にアカンなぁ〜。撤退するで!」
今吉の言葉に、黒子と黛は頷く。黛は、黒子に肩を貸し移動することになった。結紀は、逃がすつもりはなかった。
右足に力を入れて、今吉との距離を一気に縮める。右手を鋭くさせ、彼の心臓に向かって突き刺そうとしていた。
一瞬だったので、今吉の動きが遅かった。このままでは、完全に心臓を殺られると思った。だが、彼は強運の持ち主なのか、はたまた偶然だったのか、結紀の右腕にナイフが突き刺さる。
それも、貫通していた。結紀は、驚きの表情を浮かべながら今吉から離れる。それは、昴輝もとても驚いていた。
「結紀っ!」
昴輝は、慌てて彼女に近づく。痛みを感じないため、彼女は苦痛を浮かべることはなく、冷静に辺りを見回す。
そして、自分に刺さったナイフを引っこ抜き、ある方向に投げる。物陰から何かが飛び出してきた。それと同時に結紀と昴輝は下がる。
今吉の前に立つ人物は……。
「……貴方は……。」
「流石に今のは危なかったな。」
そこには、狼族の霧渓の姿だった。どうやら、霧渓がナイフを投げたようだ。結紀の右腕から血が流れて、地面が少しずつ赤く染まり始める。
だが先程、結紀は黒子に重傷を負わせていたので、血は既に足りている。右腕の傷口は徐々に回復し始めていた。
彼女の前に昴輝が立つ。瞳孔を細め、睨み付ける。
「貴様、頭首である結紀に攻撃するとは……死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?」
ピリピリとした空気が流れる。彼が相当、怒っているのが肌で感じ取れる。