第9章 記録と繁栄
ギラリと怪しく銀色に光る物が見える。よく見れば、ナイフだ。だが、結紀の背後は木の筈だった。木から声が聞こえてくる、という現象はありえない。
そこから予想されるのが、化けることができる狐族か狸族しかいない。普段なら結紀は敵を感知できるはず。しかし、そんな感知もせず、まして気配も全くなかった。
この状況から昴輝は驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに険しい表情を変え結紀を助けようと行動した瞬間だった。
「だから、動くんじゃねぇって言ったろ。」
「がっ……。」
昴輝の背中に強い痛みを感じたときには、その場に倒れていた。そのまま昴輝の両腕を後ろに回し、動かないように拘束する。
昴輝を拘束した人物は、狸族の黛だ。昴輝は、瞳孔を細くし瞳は金色に光、黛を睨み付ける。逆に黛は、とくに表情を変えることなく昴輝を見る。
「昴輝っ!」
結紀が叫ぶ。だが、お互いに行動ができない状態だ。
「ご苦労さん。2人に頼んで正解やなぁ〜。」
どこか楽しそうな口調で、木の影から出てくる人物がいた。その笑みは、とても妖しかった。それは、まるで妖怪なにかではないかと結紀は思っていた。
その人物は、狸族の頭首である今吉だ。余裕そうな笑みを浮かべている今吉を結紀は、睨み付ける。今吉は、ゆっくりと結紀に近づき屈む。
そして、今吉は、じっと結紀を見る。まるで観察をしているみたいだった。その視線すら、結紀にとってかなり不快なものだ。
しかし、今吉は今すぐにこの2人をどうにかしようとは考えてもいない様子だ。