第9章 記録と繁栄
結紀の言葉を聞いた昴輝は、「オレも行く……」と彼女に伝える。彼の言葉を聞いた彼女は……。
「……おいで。」
その一言のみで、どこかへと歩きだす。正直に言って昴輝自身では、彼女は嫌がるのではないかと思っていたが、そんな素振りを見せないのに、心のなかで驚いていた。
昴輝は結紀のあとに付いて行くのだった。
結紀のあとに付いて行けと森であった。そこは、彰が"完全消滅"した場所だった。2人にとって、最も大切な人が失われてしまった嫌な場所である。
昴輝は、ここに来て結紀が何をするのかと疑問に思ったのだが、結紀は何もすることなく近くの木に寄りかかって座る。
「……結紀、ここは……。」
凄く言いにくそうに昴輝は結紀に尋ねる。そんな彼に対して、彼女はとくに表情を変えることなく静かに言った。
「"完全消滅"した彰は、もうここにはいない。けど、なんとなくいるような感じがする。矛盾してるけどね。」
「……そうか。」
結紀の言葉にとくに返すことはなかった。彰がこの場所にいるというのは、昴輝も感じていたことだ。
弱々しい風が結紀と昴輝の頬を優しく撫でるように通る。それは、まるで彰が返事をしているみたいだった。
会議が長かったせいか、外に出る時間も遅かった為、空はオレンジ色に染まっていた。暫くしてから、家に帰ろうと立ち上がろうとした時……。
「動かないで下さい。」
結紀の背後から聞こえてきた。