第9章 記録と繁栄
その理由は、吸血鬼族の頭首として。そして、未来の吸血鬼族のために。
――結紀。
温かい声が結紀の名前を呼ぶ。明るい光が結紀を優しく包み込む。目を開ければ、昴輝が不思議そうな表情で結紀を見ていた。
「さっきから呼んでも返事しないし……。どうした?」
「……いや、何でもないよ。ぼーっとしてただけ。」
先程の声は、恐らく昴輝の声だろう。どうやら結紀が茫然としている間に話が進んでいた。結紀の脳裏で谷矢の姿がこびりついている。それだけが、どうも気になって仕方なかった。
――なぜ、今頃になって谷矢が出てくるんだろう……。アイツは死んだ……。そう、死んだのだ……。
結紀は嫌な気持ちを振り払うかのように、深い深い溜息を1つ溢すのだった。暫くしてから、会議は解散されたのだった。
会議で、昴輝が話してた内容は、結紀の記憶には残っていない。結紀が向かったのは、自分の部屋だ。部屋を入るなり、机の中を開ける。
そこにあったのは、谷矢の羽だ。結紀は、谷矢の羽を処分せずにとってあったのだ。これは見せしめでもあるのだが……。
けど、結紀は、この羽を利用しようとは考えてもいなかった。理由はよく分からないが……。結紀は、深い溜息を吐き出し引き出しを閉める。
部屋を出れば、そこには腕組みをし立っている昴輝の姿があった。結紀を見た昴輝は、腕組みをやめて歩いて結紀に近付く。
「どっか、出掛けるのか?」
「……気分転換に、ね。」