第9章 記録と繁栄
だから、尚更他の種族にはバレてはいけなかった。だが、過ぎてしまったことには仕方なかった。しかし、結紀が産まれた瞬間は、本人は覚えていない。
覚えていないのが普通なのだ。勿論のこと、昴輝が産まれた瞬間なんて覚えてもいない。けど、1つ言えることは、全員、花から産まれた為、父親母親の存在がないことだ。
だから、村全体で産まれた吸血鬼を大切に育てていくのだ。そして、密かに育ててられてきた結紀は、他族に記録として残されなかったのだ。
結紀の目の前で、先祖の話を聞く日向たち。その話に耳を傾けながら結紀は瞳をゆっくり閉じる。視界は暗闇になる。だからなのか、だんだんと昴輝達の声が少しずつ遠くなっていく。
結紀自身が寝落ちすると思ったのか、急いで瞳を開ける。しかし、目の前に広がるのは暗い部屋。その部屋には、数人の吸血鬼族。それだけではない、女性の人間族が1人いた。
よくよく見れば人間族の女性は、手足を拘束されている。その影響なのか、女性の体はカタカタと震えていた。吸血鬼族の手元を見ると、赤い大きな瓶を持っていた。
その正体は、考えなくても分かる。あの液体は"吸血鬼の血"だと。これから行うことは結紀には分かった。そして、吸血鬼の1人が女性の顎を掴み、無理矢理、口を開けさせる。
「や……やぇ……」
女性の瞳から流れる涙。恐怖が女性を覆い尽くす。吸血鬼の男性は、瓶の蓋を開け女性の口に注ごうとした。
「何をしている!?」
結紀は、咄嗟に吸血鬼の男性に声を掛け腕を掴もうとする。