第1章 【新堂カイト】
トントン、とドアがノックされて顔を上げる。
はいどうぞ。と返事をすれば少し遠慮がちにそのドアは開かれた。そこに居た人物は、主演キャストの1人なのに事務処理などもこなしている橘蒼星さん。
「ありささん、まだ残ってたの?集中するのは良いけど、女の子がこんな時間まで残ってるなんて危ないよ」
「あ、蒼星さん…すみません夢中になっていたらこんな時間に…大丈夫ですよ!電車ですぐに帰れますし」
「そうは言ってもね。何か手伝えることはある?」
「いえいえ!ただでさえ蒼星さん忙しいんですから早く帰って休んで下さい!もう少しでひと段落つくので、そしたら帰ります」
私の仕事を忙しい蒼星さんに手伝わせるわけにはいかないと、首を振ればクスリと笑ってくれた蒼星さん。
「あ、それ次の公演の衣装?」
「はい!陽向君のデザインって素敵ですよね。これを着た皆さんがやる舞台を想像しただけでワクワクしちゃいます」
「ふふ、本当に君は舞台が好きなんだね。衣装からそれが伝わってくるよ。そういえば、また昴が無茶なこと言い出したんだって?」
製作室に入ってきた蒼星さん。私の傍まで来れば柔らかい笑みを浮かべてくれた。私が少し興奮気味に言えば、ふわりと頭を撫でてくれる。
まるで優しいお兄ちゃんのよう。
「あ、動きに邪魔だから何とかしてくれって言われたんですが、デザイン変わっちゃうので陽向君に聞いてって言ったんです」
「あぁ、だから昴、陽向に怒られてたんだ」
「ふふ、昴らしいですね」
私が説明すれば、納得したように呟いた蒼星さん。私が笑うと、そうだねと同じように笑ってくれた。
「まだ俺も仕事残ってて事務所に居るから、帰る時声掛けてね」
「はい!蒼星さんも無理しないで下さいね」
「うん、ありがとう。次の衣装も楽しみにしているね」
再び私の頭をそっと撫でてくれた蒼星さん。パタリと静かにドアが閉まれば、もう少し頑張ろうと気合いを入れた。
主演キャストからの言葉は、例えお世辞であっても嬉しい。一緒に舞台を作り上げるんだ、と作業の続きに取り掛かった。