第1章 【新堂カイト】
衣装製作がひと段落ついた頃には時計の針は10時を回っていて。
電車なくなる!なんて今更ながらに焦れば慌てて片付ける。
帰る時に事務所に顔出せって蒼星さんから言われていたなと思い出せば、鞄を肩にかけて製作室の鍵をかけた。
パタパタと軽く走りながら事務所の前までくれば、まだ電気が点いている。まさか蒼星さんはまだ仕事をしているとでも言うのか。
ゆっくりとノックをすれば、中から誰かの声が聞こえたのでそっと開ける。
「あぁありささん、やっと終わったかな?鍵預かるよ。俺はまだ仕事残っているから」
「蒼星さんまだ帰らないんですか?もう10時過ぎてますし…それこそ私で出来ることなら!」
「ありがとう。でも女の子をこれ以上遅い時間まで残すわけにはいかないし。本来なら駅まで送っていきたいんだけど…」
事務所に入れば、まだ仕事をしている蒼星さんが。蒼星さんの机の上には書類が山になっていて。まさかこれを全て処理してから帰るなんて言わないよねと不安になってくる。
私からの提案はやんわりと断られ、鍵を渡す為蒼星さんの側にいけばまた優しく頭を撫でられた。
「わ、私は大丈夫です帰れます!でも蒼星さん無理しないで下さい。今度の公演だって準主役ですよ!」
「うん、無理はしないよ。俺は大丈夫だから、気を付けて帰るんだよ」
「…はい。何か手伝えることがあれば言ってください!じゃあ…お先に失礼します」
「お疲れ様ありささん」
軽く頭を下げればニコリと微笑んで手を振ってくれた蒼星さん。後ろ髪を引かれながらも私は事務所を出て玄関へと向かう。
カンパニー内も凄く静かで、暗がりが得意ではない私は必然的に早足となる。
正面玄関は既に鍵がかかっているため、裏口から外へと出た。
ふと見上げれば、明かりのついている事務所の窓を見つめる。
引き返して蒼星さんの手伝いを、とも思ったのだが私が居ることで蒼星さんに気を遣わしてしまうと思えば、最寄りの駅に歩みを進める。
10時ともなれば、明かりが点いているのはバーや居酒屋、風俗店。何度かキャッチと思われる声掛けを無視しながら、カツカツとヒールの音を立てて繁華街を歩いた。