第1章 【新堂カイト】
「お姉さん可愛いね、俺と飲もうよ。奢ってあげるからさ」
繁華街を歩いている最中男に絡まれた。
もっと誘いにのりそうな女の子捕まえなさいよと思いながらも、「暇じゃないから」とあしらい駅へと急ぐ。
しかし、ガシッと腕を掴まれてしまえば男の力に勝てるわけもなく振り払うことが出来ない。チラッと男の顔を見れば、どうやら既に出来上がっているようで赤らんでいる。酔っ払いに絡まれたわけだ。
「良いじゃん奢ってあげるってば」
「離してください…大声出しますよ?」
「オイ、何してる?」
中々離してくれないので、大声を出して助けを呼ぼうとした時聞き覚えのある声がして其方の方を向いてその人物に思わず固まる。
「あぁ?」
「俺のツレに何か用かよ」
「チッ…男居たのかよ…」
そう言って酔っ払いは私の手を離して立ち去って、その場には未だ固まってる私と、助けてくれた彼。私の憧れのあの人ーー…
「オイ、大丈夫かよ」
「え、あっ、大丈夫です!ありがとうございます、助かりました」
「…お前確かヒナタんとこの…」
「は、はい。衣装担当の谷垣です」
「こんな時間まで仕事か?」
「はい、次の公演の衣装デザインを陽向くんからもらったのでつい夢中になって作ってたらこんな時間に…」
なんという偶然か、私を助けてくれたのはカイトさんで、しかも私が夢色カンパニーで働いていることを知っていてくれていた。
さっきまで最悪だった気分が最高なものに変わっていく。
こんなまともに会話を交わしたのは初めてで、心臓がバクバク音を立てて鳴り響いていてカイトさんに聞こえてしまうんじゃないかとヒヤヒヤする。
眉をピクリと顰めたカイトさんが歩き出したので見送ろうと思ってその姿を見ていれば不意に振り返り私と視線が絡んで、また心臓がドキッと音を立て激しく打ち鳴らされる。
「何ボケっと突っ立ってんだ。駅まで行くんだろ」
「…え、あ、はっはい!」
カイトさんから発せられた言葉を理解するのに時間がかかり、その場で固まっていればさっさと歩き出してしまったカイトさんを慌てて追いかけ数歩後ろを歩く。
どうしよう、あのカイトさんと一緒に歩いてる…
夢じゃないよね?私、制作室で寝てるわけじゃないよね!?
むにっと頬を摘んでみる……痛い。
どうやら私の都合の良い夢、というわけではないらしい。