第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)
「で、でも、なんで今になって戻ったんですか?南さんから、雪さん自身に意思がないと戻れないって聞きましたけど…雪さんは男の方が便利だったんですよね?」
「あー…あはは…ねー…………不便なこともあるんだって知ったんだよアレン…」
「え?なんですかそれ」
「不便というか、いけない沼に沈んでいくというか…」
「いけない沼?」
「どろどろのね」
「な、なんですかそれ」
「男には色々あるんだよアレン…」
「僕も男ですけど…」
明後日の方角を見つめて溜息をつく雪には、哀愁さえ漂っているように見える。
そんな彼女の横を向く首筋に、小さな赤い花弁をアレンは見つけた。
それが今更虫刺されではないことはわかっている。
別の意味でほんのりと熱くなる頬を俯かせて、アレンは白い頭をぽりぽりと指先で搔いた。
「…雪さん。神田は、このことを?」
「うん?いいや、まだ知らないよ。五日前から任務で帰ってきてないし。まぁ知ったとしても、反応は変わらないと思うけど」
「神田は一番驚かなかったですもんね…雪さんが男になっても」
「うん。ユウの中でも何も変わってないんだろうなー………本当、面白いくらいに…」
「?(あ。また哀愁漂ってる。神田と何か関係してる沼なのかな)じゃあ後で伝えに行ったらどうですか。さっき司令室に向かう神田を見かけましたよ、任務帰りみたいで」
「ほんとっ?ユウ、怪我とかしてた?」
「いいえ。いつも通りの仏頂面で大変元気そうでした」
そっか、と相槌を打ちながら顔を綻ばせる雪の表情は、柔らかい。
そんな顔をさせられるのは、神田だからなのだろう。
僅かに目を細めると、アレンはソファから腰を上げた。
「さて、じゃあ僕は行きますね。椛にも雪さんのこと伝えたいし」
「うん、よろしくね。あ、アレン。ユウが司令室に行ったのって…」
「15分程前ですから、まだいると思いますよ。迎えに行ってあげたらどうですか?」
アレンの誘いに、いそいそと雪もまたソファから腰を上げる。
そんな雪の姿に、やはり女性の方が似合うのではないかとアレンは微笑んだ。
神田絡みで見せる彼女の顔は、愛くるしいものなのだ。