第24章 宝物は君だけ【十四松END】
だめだ、何を言っても逆効果…全然話を聞いてくれそうにない。
いっそ逃げ出してしまおうか。でも捕まってしまうかもしれない。背中を見せるほうが危険なことは、身を持って知っている。
これだけ周りに人がいるのに、みんな浮かれていてこちらに見向きもしない。やっぱり自分でなんとかするしかないのかな…
その時だった。
「ぅわっ冷てッ!」
男の1人がなぜか飛び上がって悶絶する。慌てて着ていた上着を脱ぎ捨てると、それは何かの液体でびしょびしょに濡れていた。
「ッてめぇか!いきなり何しやがる!」
男は背後を振り返り罵声を浴びせる。男が邪魔で、誰がいるのかはここからじゃ見えない。でも…
「あはは、ごめんごめん。転びそうになって、手が滑っちゃった」
こ、この声…十四松くん?!
「手が滑っちゃっただぁ?明らかにわざとだろうが!なめてんのかあぁッ!?」
先ほどまでの穏やかそうな雰囲気はどこへやら、怒り心頭の男が拳を振り上げる。他の二人も臨戦体勢だ。いけない、このままじゃ…!
「…あーもう、だから謝ってるでしょ?仕方ないなぁ」
「っな…ッ!」
…一瞬。本当に一瞬すぎて。
まばたきをしたその刹那、勝負は着いてしまっていた。
「…え、あれ…?」
「な、なんで倒れてんだ俺たち…何が起こったんだ…?」
私の目の前には、折り重なるように地面に突っ伏す3人と、
そんな彼らを見下ろしながら仁王立ちしている、なんのダメージも受けていない十四松くんが。
「はい、これで分かったでしょ?君たちは僕に敵わないんだから、大人しく退散してくれるかな!ああ、それと…」
表情は笑顔。…でも、目だけ笑っていない。
「君たちより僕の方が何倍も怒ってるから…もう二度と彼女に近付かないでね?」
「「「!!」」」
男の方を振り返ったため、十四松くんの顔は見えなかったけれど、彼らが目を見開いて息を呑むのが分かった。
「く、くそ…っ」
舌打ちをしながら起き上がり、3人はよれよれになりながら人混みの中に消えていく。…た、助かった、の…?