第24章 宝物は君だけ【十四松END】
一瞬、彼の顔が歪む。バットを持つ右手を左手でぎゅっと押さえたのが見えた。
「?十四松くん、どこか痛いの?」
「えっ!?う、ううん、痛くないよ」
「でも…ごめんね、手見せてくれる?」
「わっ!」
少々強引に彼の手を掴んで開かせてみる。うん、少し赤いけど左手は問題なさそう。じゃあこっちは…
「十四松くん、バット貸して?」
「!な、なんで?」
「右手を見たいの。それを持ってたら見れないから…」
「あ…」
十四松くんは嫌々と首を振る。そんな、いつもの彼ならこんな風に駄々をこねたりしないのに。
「十四松くん、お願い」
私は彼と目を合わせて頼み込む。やがて十四松くんはおずおずとバットを私に預けて、手のひらを見せてくれた。
「…!い、痛そう…」
案の定、彼の右手はマメだらけで、それがところどころ破け、血が滲んでいた。
「十四松くん、こんなになるまでバット握っちゃだめだよ!ずっと痛いの我慢してたの?」
責めるつもりはなかったけれど、どうしても咎めるようなきつい口調になってしまう。
十四松くんはしょぼんとしてしまった。
「だ、だって…素振り、できなくなるの嫌だったから…昨日まではこんなにひどくなかったんだけど…」
彼が無類の野球好きなのを、私は前から知っている。
他の兄弟があまり関心がないせいで、いつも一人で素振りをするしかなくて寂しい…と聞いたこともあった。
十四松くんの趣味や好きなものを否定するつもりはない。でも彼は純粋すぎるゆえに、なんでも限度を越えてやってしまう危うさがある。
それだけ好きってことなんだろうけど…心配だ。現に今の状態の十四松くんを放ってはおけない。
「…十四松くん、気持ちは分かるけどまずは手当てしよう。何事にも一生懸命なのはあなたのいいところだけど、自分を傷付けるまでやっちゃだめ。…分かった?」
「!……うん」
今度は素直に頷いてくれる。少しだけ彼の笑顔が戻ったところで、私は手当てをするために彼を自宅に連れていくことにした。
タイムサービスは間に合わなくなるけど、私の事情より十四松くんの方が優先だ。早く応急処置しないと!