第21章 君の瞳に映るのは【カラ松END】
「…絵菜?どうしたんだ、そんな暗い顔をして」
「…あ、ご、ごめん…」
「いや、謝る必要はないが…もしかして、俺のことを心配してくれているのか?」
「!」
…心配。そう、心配だ。
安心なんてすべきじゃない。
「…うん。だってカラ松くん、悔しくないの?好き勝手に振り回されて、お財布扱いされて…さっきのレストランだって、すごく高かったんじゃない?お金を貢がせるだけ貢がせてさよならなんて、あまりにも酷すぎるよ…」
沸々と、あの女性に対して怒りが込み上げてくる。これが普通の感情。なのに私は…
でも、カラ松くんは、
「いや、悔しくはないんだ」
と首を横に振る。
「…へ?」
「確かに店に入りたいと言ったのは彼女だが、奢ると言ったのは俺だからな。女性には喜んでもらいたいだろう?どんな形であれ誘いを受けたからには、精一杯のもてなしをすべきだと思うんだ。…例え、騙されていたとしてもな」
「…っ…」
カラ松くんは、優しすぎる。
人に優しいのは美徳ではあるかもしれない。でもこの優しさは、行き過ぎた優しさだ。
こんな酷い目に遭っても、彼は悔しがるどころか、怒りもしない。むしろ、用心しなかった自分が悪い、とでも言いそうな雰囲気だ。
違う…あなたは何も悪くない。
「カラ松くん…だめだよ、我慢しちゃ。こういう時くらい、怒っていいんだよ?」
「我慢?怒る…?」
彼は顎に手を当てて思案する。が、それもほんの数秒のこと。
「していないさ。俺がしたくてしたことだ。ただ、君に心配をさせてしまったことはすまないと思っている。以後、女性からの誘いには気を付けよう」
…ああ、そうか。
これがカラ松くんなんだ。
自分が騙されようが利用されようが怒らない。
でも、自分以外の誰かが被害に遭っていたとしたら…きっとその時は、誰よりも怒る。
誰かのために、誰かを守るために。その時だけ、カラ松くんは激情家になるんだ。
そしてそんな彼のことを、私はちゃんと知っている。
知っていたはずなのに、
この胸の奥のモヤモヤとした気持ちが邪魔をして、ついカラ松くんを責めてしまった。
どうしてしまったんだろう。私って、こんなに嫌なやつだったっけ。