第17章 甘い時間と僕の願い【トド松】
二人分のカレーを盛り付けて居間へと運び、トド松くんと向かい合わせに座る。
「「いただきまーす!」」
…うん、我ながらおいしい。隠し味にはちみつを入れたのがよかったのかも。
「やっぱり君の作る料理はおいしいね!ああ、僕も手作り弁当食べてみたかったなぁ」
「トド松くんがそう言うなら、いつでも作ってあげるよ」
「わぁ、ありがとう!そうだ、今度僕と…み、みんなと一緒にピクニックにでも行かない?大勢だときっとすごく楽しいと思うんだ」
「ピクニック!いいね、賛成!」
…あ、でも…
「絵菜ちゃん?どうかした?」
突然黙りこんでしまった私を、彼が心配そうな声色で尋ねてくる。
「その…私、よく考えたら、仕事もうすぐ始まるんだなって。最近慌ただしくってすっかり忘れちゃってたみたい」
思えば、上京したのはよりよい職業を探すため。半分は地元に居づらくなったからっていうのもあったけど、こっちに来たばかりの時の私は、ひたすら就活三昧だったっけ。
働けるのは嬉しい。元々はそれが目的だったんだから。給料をもらえるようになったら父に連絡をして、今の絶縁に近い状況をどうにか好転させたいという気持ちも変わらない。でも…
「…不安?絵菜ちゃん」
「!」
「君にとっては、新しい生活がスタートするんだ。ううん、新たな一歩を踏み出すといったほうがいいかな。君のお父さんのことがすぐ解決するわけじゃないにしろ、和解するきっかけにはなると思うよ」
「…うん」
私は…私は、父に認められたい。心のすれ違いを、空いてしまった溝を埋めたい。どうしても今のお店を潰して改装せざるを得ないのなら、頑張って働いて資金を稼ぐし、もしも継いでほしいと言われれば再度勉強して店を継ぐ覚悟もできている。
どちらも簡単にはなし得ない、険しい道のりだとは分かっていても、それでも…これは、私の幼い頃からの夢でもあるから。父と母の想いに応えることは、ただ一人の娘である私の責任でもあるから。
…けれど、トド松くんの言う通り、不安は付きまとう。こんな時こそ前向きにならなきゃいけないのに、自分に100%の自信が持てないんだ。
それに多分…私が前向きになれない理由は、それだけじゃない。